プロローグ

鈍い音が響いた。

「ぐ……おぼッ……」

やがてソイツは口から色んなものを垂らしながら崩れ落ちる。
そのサマが果てしなく醜くてブザマでイライラしたから、蹲るソイツにもう1発蹴りを入れておいた。

数分後、そろそろ何の反応も返さなくなってツマンネーから、サッサとお目当てのモンをいただいて撤収だ。
世間はオレのこの行為を、蔑んだ目でこう言う。『カツアゲ』だ、と。
だが、これはオレからすれば『生きるために必要なこと』だ。
オマエさんらは生きるために牛や魚を躊躇い無くブチ殺すだろう?オレの感覚は“それ”だ。
寧ろ殺さないだけ良心的じゃあないのか……。
それでもオマエさんたちは、オレたちをこう呼ぶんだ。『社会の陰』と――。

――光があれば陰がある。街の大通りと路地裏なんか、まさにソレの縮図。
光にあたって生きていられる人間はシアワセだ。じゃあ陰は?オレたちはどうなんだ?
オレたちは何で『陰』なんだ?オレたちが何かしたのか?なぁ、答えろよ?

答えてくれるモンなんて居ないのは解りきっているのに、問わずには居られない。
ただ真っ黒な理不尽さだけが笑いかけてくれる。……オマエの笑顔なんてオレは要らない。


……――笑顔……。

その言葉がオレの心に……小さな針となって食い込む。
でも、こうしなきゃあオレは生きていけないから。仕方無いだろう?
学も無い。友も無い。ならばこれ以外に道は無い。オレの目の前に広がるのは、暗く冷たい灰色の道。
其処に星なんて在りはしないのに、オレはただただ、今日も殴って、殴られて、生きていく。



これはオレの、少しばかり昔の物語。
チョッぴり前まで『光』の中に居た、オレの物語。
――突然ガラガラと崩れ去った光――オレの物語――。



神を呪って――≪神殺し≫によって掻き乱され――≪神殺し(ディーサイド)≫によって生かされた。

イルゾル・ビッグスターの、少しばかり昔の物語――――。



―――― ≪DEICIDE 〜Till Death Do Us Part≫ ――――


≪DEICIDE 〜Till Death Do Us Part≫ 〜Part 1

何処から、話そうか。

幸い、時間はたっぷりとあるから、な。
いや……それが幸なのか、不幸なのかは、わからないが。
今、オレの時間は停まっている。……ならば、これは走馬灯というヤツなのだろうか?
何故、今オレのチョッとした昔話を話す気になったかって、説明しろって言われても説明できねぇよ。
ただ、オレの意識が完全な真っ黒の闇に染まる前に、ただ――“オレ”が生きたという“軌跡”を記して――「証明」が欲しいんだ。


ああ、わかっているよ。オレは、誰かに知って欲しいんだ。このイルゾルという、ちっぽけな男のゼンブを。
何もかもが無くなってしまうまえに――そう、オレはそんな弱いヤツだから。
だって、寂しいじゃないか――――。


今、オレに会いに来てくれているオマエさんたちは……ひょっとしたら、ああ、ひょっとしたら、いずれオレを忘れてしまうかもしれない。
オレは我侭だから。そんなの、耐えられないんだよ。向けられるその笑顔は、握ってくれるその手は、何時か消えてしまうのか?
そんなの、たまらなくイヤなんだよ。……でも、万が一そうなるまえに。オレというニンゲンを、記しておきたいんだ。
……この声がよォーー……届くことはないとしても……。……だって、そうじゃないと寂しいじゃないか……。


……ああ、何処から、話そうか――。


……以前……よォー……あの船で、さ。“オマエ”に話したことだけど。
あれがオレの最初の最初だから、そこから話そうか。


オレは、地図にも載らないような田舎町で、生まれたんだ。
貧しい家の長男として――最初の子供として生命を貰ったんだ。ああ、その家に金は無くても、確かな愛があった。
オヤジは寡黙な鍛冶師だった。だが、オヤジには、彼が鍛える鋼よりも気高く輝く強い意志があった。オレの自慢のオヤジだった。
オカンはそんなオヤジの愚直なまでの一本気に惚れたんだろう。寡黙なオヤジの意思をよく汲み取る、似合いの2人だった。
オレは今、そんな家庭に生命を享けたことを感謝する。彼らが居るから、イルゾル・ビッグスターは居るんだ。当たり前のことだが…。

……でもよォー、皮肉なことに。オレは生まれた瞬間から……そう、表現するなら……。
生まれた瞬間、オレだけが……そう、“歯車の色が違っていた”とでも表そうか?
物心ついた時、それはオレの目の前に現れた。いや、それは間違いで、ずっと居たのだろう。
オレがそれを“認識”したのは、それが“異常である”と知ったその瞬間だ。オレはそれが“あたりまえ”だと思っていた。


――後にオレは名付けることになる。


アートマン、≪ディーサイド≫。――――≪神殺し≫。


オレ、イルゾル・ビッグスターが3歳の時に、オレはコイツを認識した。
そして、それが――『オレの物語』というものの幕開けとなったんだ。


“幸福”は、それを知り、芽生えたときから、ああ、その根元から黒く黒く侵食を開始していた。


≪DEICIDE 〜Till Death Do Us Part≫ 〜Part 2

≪ディーサイド≫は……正確には、その時まだ名前は無かったが、ソイツはすぐさまオレの日常に侵食してきた。
まず「理解」ができなかった…当然、「能力」だとか、「アートマン」だとか、解るワケ、ないだろう。
ああ、本人にわからないんだぜ?“他人”にどうして理解できる――。

オレの故郷は小さなところだったが、それでも子供は居た。オレを含め、数名は居た。
子供は何をするのが仕事かって、遊ぶのが仕事だろう。遊んで、人間関係を学ぶのが仕事だろう。
でも、オレにはそれが出来なかった。何故かって――オレがそれを避けたわけじゃない。

ああ、彼らには≪ディーサイド≫は見えないのだ。「能力」を認識していないのだから……見えるはずがない。
“オレにだけ見える謎の人”は、見事にオレを“異端者”にまで押し上げてくれた。
友は友と成る前に、オレの前から消えていった。

やがてオレは“孤独”を知った。だが幼いオレは、ああ、なんでンなトコだけ頭が回るんだ。
オレは両親に泣きつこうとはしなかった。何故って……彼らも辛かったのだから。
貧しさ、という錆付いた鎖がオレの両親を雁字搦めにして苦しめているのを、オレは本能的に理解していた。
オレのガキの頃は、ヘンなトコだけ大人だったんだ。なんでだよ、全く。……オレは仮面を使い分けた。
当時、オレの友達は、オヤジが嗜んでいたギターだけだった。撫でると絶対答えてくれるそれが、大好きだった。

しかし、そんなオレの孤独なる闇の中に、一筋の希望が差し込んだ。
オレが所謂、異世界でいう「小学生」くらいの年齢になった時のことだった。

やがて、『イルゾル』を『イルゾル・ビッグスター』とすることになる存在。
オレの妹、リムルがやってきた。

……オレの世界は一変した。まるで列車に乗って窓から見る景色。
あれのように、凄いスピードで今までの暗闇の世界は後ろに吹っ飛び去り、光の世界がやってきた。
誰かと関わるということが、こんなにも人生を綺麗に彩ってくれるのかと実感した。
それから数年間は、紛れも無くオレは幸せだった。
どんなことがあっても、家に帰ってくれば全て忘れることができた。
リムルの笑顔が、オカンの作るトマトのスープが、オヤジの厳格なる、だが確固たる優しさを秘めた『おかえり』が。
全てがオレにとって眩しくて、あたたかくて――ああ、オレは幸せだった。


幸せ、だったんだ。


光が強ければ強いほど、陰が大きくなるのは真理だ。
家でのオレが輝けば輝くほどに、学び舎でのオレは深く深く、深淵なる闇の底へと沈んでいった。
それでもオレは幸せだったんだ!――このあたたかい隔離された世界さえあればオレは――――。
……だが、それではいけないということも、うすうす感付いていた。
不安は焦りとなり、少しずつ、少しずつ、オレを追い詰めてきていた――。



――そんな中、12歳くらいになったころ。或る夜、オレはオヤジに呼ばれた。


≪DEICIDE 〜Till Death Do Us Part≫ 〜Part 3

12年間。
オヤジは、オレの知るオヤジは、ただ只管に鋼と炎のみを見続ける、寡黙だが気高き鍛冶屋の男だった。
だが、その奥底にある、ほんのちょっぴりだが、とても輝ける優しさ――オレはそれが好きだった。

そんなオヤジが、オレだけを、急に呼びつけるなんて初めてのことだった。
夜――雲が少しだけ月にかかっていた。風が心地よいベランダで、オヤジは待っていた。

「……父さん?何の用?」

オヤジはずっとベランダから村を、空を見上げていた。そして、振り向くこともなく、オレに急に、こう言った。

「イルゾル。……――“太陽”と“月”と“星”。一番“すごいもの”は、何だと思う?」


……――唐突、だった。普段のオヤジからは、全く、全くどうしても想像できない、その言葉。
厳格なる調子は秘めたままで、オヤジは確かに、そんな意味のわからないことを聞いた。

「太陽と月と星で……一番すごいもの?」

「そうだ。答えてみろ。おまえが思ったものを」


「……『太陽』じゃないの?『太陽』は……すごくあたたかい」

「違うな。“太陽”は確かに俺たちを照らし、生活には欠かせない存在となっている。
 太陽が無ければ、俺たちは生きることは出来ない。だが、太陽ではない。
 太陽はな……“眩しすぎる”からな」

「……言っている意味が、よくわからない。じゃあ、『月』?
 『月』は太陽よりは眩しくないよ」

「それも違う。“月”は確かに淡くやさしく俺たちを照らしてくれる。だがな、違うんだ」

「……じゃあ」

「“星”だ」


オヤジはここで、初めて振り向いてオレの顔を見た。その顔は――はじめて、みる表情(かお)だった。

「なんで『星』なのか?理由を言うよ――。月はな、あいつはな……“完ペキ過ぎる”んだよ。
 満月を、見たことあるかイルゾル?綺麗なまん丸――完全なまん丸だろう?欠けたところ一つ無い。
 ああ、月は凄いのかも知れない。だけど俺は“違う”と思うんだな。完全なヤツが完璧にこなしても、何も凄くない
 太陽もだ。あいつはパワーがありすぎる……灼熱の圧倒的なパワーだ……元から凄いヤツが凄いことをしても凄くない」

……オレは、12年生きてきて、ここまで饒舌なオヤジを見たのは初めてだった。
なによりもその驚愕があった――オヤジの言っていることの、五割もアタマに入っていなかった。だが、言葉は覚えている。

「『星』ってよ……ちっちゃいよな?凄い遠くにあるからちっちゃいんだってよ。
 それに多分、お月さんと違って歪だし太陽ほどのパワーもない……「不完全な存在」だ。
 だけどなイルゾル。あいつらは、この遠く離れた場所まで、しっかりと『光』を届かせているんだ。
 ずっとずっと……ずっとだ。そんな「姿勢」に、俺は憧れすら覚える……」

「なぁ、イルゾルよ」

「『太陽』や『月』である必要なんか、無い。一見してちっぽけな『星』たちでも、こうして誰かの心に響いていることがある」
「少しずつ、ほんのちょっとでもいいじゃないか。オマエの『光』を届かせることは」
「いきなり『太陽』や『月』みたいなやつら、目指さなくてもいいんだよ」


――そしてオヤジは、オレのアタマに、そのごつごつとした大きな掌を一度乗せて、家に入っていった。

オヤジが何を言いたかったか?当時はよくわからなかった…でも、何故か心が軽くなった気がして、
ふっと空を見上げたら、

その日の星空は、凄い綺麗に見えたんだ。


≪DEICIDE 〜Till Death Do Us Part≫ 〜Part 4

幼いオレではオヤジの言葉を完全に理解することは出来なかったが、それでも断片的には理解できた。
オレの『光』を届かせることは……少しずつでいい。少しずつ……少しずつ、積み重ねていこうと思った。
それと同時に、オレは、この素晴らしいオヤジに、両親に対して、何か物凄く、恩返しがしたくなった。

導き出された結論は、バイトをすることだった。オレは13歳だったが……アートマン≪ディーサイド≫。
そのパワーは、ガキだったオレに、青年並みの労働力を与えてくれた。
皮肉なモンだ。幼少期のオレをドン底に叩き込んでくれたオマエのお陰で、オレは働くことができたんだ……。
両親には『小遣い稼ぎがしたい』と説明した。オカンは難色を示したようだがオヤジは『好きにするといい』とそっけなく言った。
そのそっけなさの中に――オレは確かなものを感じていた。それは言葉では表せないが――
そう、オヤジが『認めてくれた』と思った……。その日、オレはなんだか眠れなかったのをよく覚えている。
一歩、一歩……この偉大なる父に近付いているような気がして、嬉しかった。

やがて、オレはアルバイトとして、近くの小さな仕事場で雇われた。
オレの任務は荷物を運ぶ事……それはなかなかに大変な作業だったが、ディーサイドのお陰で、そう苦しくは無かった。

……仕事場はオレにとって、新しい世界だった。とても大変なものだったが……大人たちはオレに優しくしてくれた。
オレがアートマン能力者だというのは皆知っていたから、異端児扱いされることもない。
オレはそこで、最低限の礼儀と、交流の仕方を学んだ。オレの『光』は、ちょっとずつ広がっていったんだ。
……これは両親には秘密のことだが……学び舎をサボって仕事場に行っていたことも、あった。
何故って、学び舎に居ても無意味だと思ったからだ。それにもともと、オレは授業なんて受けてなかった。
最低限の読み書きを覚えて、後は自分から棄てた。
机に向かって無駄な問題解くより、外で鳥や花の種類覚えた方が有意義だと思った。だからオレの学び舎は『外』だった。
……そんな学び舎よりも、人間関係を学んでいたほうが百万倍有意義だ……そう思ったから。

1年その仕事をやり続けて、オレにはカネが手に入った。カネがありゃあ、どんな恩返しだって出来る――そう思ってた。
……オレは両親に、サプライズとして……ささやかだが、一泊二日の旅行をプレゼントしたんだ。
日ごろの苦労を、チョッとでも忘れて欲しかった……オカンは泣いていた。オヤジは無言で、オレの頭を撫でた。
……この時、リムルは9歳だ。オレは14歳――。1日くらいの留守番は出来ると踏んでいた。

2人は、このささやかなるプレゼントを受け取ってくれた――……受け取って…しまった。オレの……最悪の贈り物を……。



やがて、その日はやってきた。


≪DEICIDE 〜Till Death Do Us Part≫ 〜Part 5

……駅、列車の前。見送りに来たオレとリムル。
……出発の時刻が近付き、オカンはオレたちの頬に唇を落として、列車に乗り込んだ。
オヤジは。――結婚指輪以外アクセサリーなんかつけないオヤジは、その首にペンダントをつけていた。簡素なペンダントを。

「オヤジ、それは?」

「これか。これはロケット・ペンダントといってな。写真が入ってあるんだ。家族の写真だ。
 イルゾル、リムル、お母さん、みんなで撮った写真だ。旅先でもずっと、おまえたちと共に居たかったからな」

そうしてオヤジは、大切そうにそれを左手で包み込んで持ち上げ、ぱくりと開いた。そして、右手に持っていた細工針で、
何かを、かりかりと削って書き込んでいた。

「オヤジ?」

「イルゾル。俺は、お前が一人前になったらこのペンダントをやる。これは“家族を背負う者”の証だ……。
 そん時に、写真だけじゃツマラない……文字を刻んどいてやるよ。楽しみにしていな」

「マジかよ?勿体ぶらずに見せてくれよ、なぁ、リムル?」
「とーさん、見せてよぅ。私も見たいよ」

「ふふ、もうすぐ列車が出発する。旅から帰ったら見せてやるさ……おい、イルゾルよ」

「何だ?」

「……立派になりやがったな……。お前は、ついに“自分で考えて、そして自分で成し遂げる”ということを達成したんだ……。
 それは『一人前になるため』には誰もが通るべき“道”……≪貫き通すべき信念の道≫だ……俺にとってのそれは鍛冶師だ。
 俺はどうしようもなく、鋼と炎の織り成す幻想世界に惚れ込んでしまった……。それが俺の≪進むべき道≫と認識した。
 それは誰のためでもない……『俺がそうしたかったから』だ……俺が選んだ≪信じられる一直線≫だったんだ……」

……2年ぶり。あの星の夜以来だった――オヤジの手が、俺の頭に置かれた。それは『家族を支える者』の掌――

「≪信じられる一直線≫を見つけ出し、一心不乱に突き進むためにはな……イルゾル。人はそれによって、『強く』――
 “過去の自分”から脱却し、新たなる、更なる強い信念を携えた“一歩先の自分”になれなくちゃあいけない……。
 ≪心から自分を成長させてくれる道≫――だイルゾル。それを見つけるんだ。じゃなきゃ“一人前”にはなれない」

「――つまり、だ。“人のために”じゃないんだ……まず、大きな≪自分のために≫が必要だ。
 ≪自分のために突き進んだ≫その結果として周囲に光を与える――それが≪理想≫だ。
 “他人本位”の道では≪ステップアップした自分≫にはなれない。少しは強くなれるが……それは『遠く及ばない』。
 他人に振り回されずに――自分自身が、見つけろ――≪進むべき信じられる一直線≫を――」

ああ、オヤジは――オヤジは――――ああ……はじめて……はじめての表情だった……
あの厳格なるオヤジは…………オレの記憶に無い表情、あの星の夜よりももっと――――にっこりと、笑って。


「…………――――ごめんな、イルゾル。帰ったら、久し振りに遊ぼう」

「…………お、やじッ……!」

……――ああ、思い出すだけで涙が出てくる。この言うことを聞かない暗闇の身体では、それは叶わないが――
オヤジは全てわかっていたんだ……全て、全て理解していたんだ……。オレが何を考えているかを……。


……列車が滑り出す。がしゅ、がしゅと荒い息を吐いて、緑色の地平線へと滑っていく――。
ああ、オヤジ。オレは必ず見つけ出してみせるよ。≪信じられる一直線≫――見送りながら、リムルの手を握って。
そう、決意した―――― その、 瞬間 だった。


……轟音が響いた。何の音だ?オレは再び地平線に目をやった。列車が無い。

列車が無い。

列車が無イ――――いやいや、あるじゃあないか。

でも、なぁ、なんで?


なんで列車が、倒れて燃えているんだ?


――――うぉぁあああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!

オレは叫んでいた。もう何も周りが見えなくなっていた。リムルに「ここで待っていろ」と吐き棄てて走った。
≪ディーサイド≫。本能的に発動し、重力でも操作していたか、オレはかなりの速度で列車まで辿り付いた。
何か強烈なものを横からたたきつけられたかのようだった。車両ひとつは完全崩壊している。
視界の隅の空に、ああ、なんだあれは?紫色の道化服を着たジジイが一瞬映ったが、どうでもいい。
うああああ。うああああ。オレは叫びながら、横転し炎上している列車のドアをディーサイドでぶち壊した。
それは両親が乗っている車両だった。オレは真っ先に両親を探した。周囲に真っ黒の人形がいっぱい見えたけどどうでもよかった。

ああ、両親はすぐ見つかった。

これはなんだろう。店頭のマネキンを真っ黒にしたみたいな、間接のへんなものが横たわっていた。
どこかで見たような顔と、どこかで見たような服をしていた。黒いクズになってよくわからなかった。認識しようとしなかった。

オヤジは――

――割レタ窓硝子ノ所ニ居タ。
真っ赤だった。真っ赤で、なんで足がない?窓枠にのこったがらすが、おなかにつきささってつらぬいていた。
ころころとオレのあしに、なんかころがってぶつかってきた。


オヤジのしていた簡素なけっこんゆびわが、ひだりてくびといっしょにころがって――――


世界ガ崩レタ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

じぶんがなにをさけんでいるか、わからなかった。


≪DEICIDE 〜Till Death Do Us Part≫ 〜Part 6

オヤジとオカンは死んだ。あまりにも呆気なく死んだ。
列車をテロリストが襲撃した結果らしかった。あまりにも呆気なく死んだ。あまりにも呆気なかった。

ああ、そうだ。オレが殺したみたいなものだった。
オレがバカみたいに旅行なんぞをプレゼントしなきゃあ…ああ、あの列車に乗るはずなんてなかった……。
でも、オレたちに、オレに哀しんでいるヒマなんかなかった。ああ、のこったのはオレとリムル。
オレは――この家を支えていかなくてはならなくなった。


オレは仕事をした。無我夢中で仕事をした。朝5時に起きて新聞を家々に叩き込み、帰ってすぐ朝ごはんを作った。
リムルを学び舎に送り届け、昼ごはんは食べずに夕方まで仕事場に引きこもった。リムルが帰ってきてから夕飯を作り、
食器を洗い、洗濯をして、リムルを風呂に入れて寝かせてから、オレはまた仕事に出た。夜の分だ。
幸い、こんなガキでも夜雇ってくれるとこがあった。オレが帰って来る時には何もかも真っ暗になっていた。
もうオレが学び舎に行くことは二度と無かった。そんなことしているヒマなんて無かった……。

辛かった。それでもオレは頑張れた。ああ≪ディーサイド≫お前のお陰。
幼少期のお前を呪い神を呪い、いつかそれすらも超えてやろう。名付けた≪神殺し≫。
皮肉なことだが、お前さえ居れば、この状況すらをも打ち破れると思った。
何より、リムルが笑ってくれるのがオレの疲れをゼンブ消してくれた。オヤジ。オレは“一人前”か?
……――そんなわけないけど、そう思うしかなかった。


――――だが、オレがどれだけ頑張ろうと――オレは所詮14のガキ。
生活はどんどんどんどん貧しくなり――……神は微笑まない――――リムルは、幼いリムルは、それに耐え切れなかった。
…………やがて、ひどいセキと熱で、リムルは病床に伏せった――――。


オレはッ……それでもがんばったんだよ……!自分の分の飯を全部抜いて、全部リムルにあげた。
薬代を買うために働く時間だって増やした…!働きすぎて血だって吐いた!!でもオレは倒れるわけにはいかないから!!
震える足を何度も何度も殴って挙句突き刺して無理矢理動かして、霞む視界を何度もブッ叩いて戻した!!
リムルに温かい御飯を食べさせるためならオレはドロだってすすることができた!そしてそのためにそうした――。
オレはどれだけでも堕ちることができたッ!!幼いころのオレに光を――オレに光をくれたリムルのためならッッ――!!

それでも、……それでも、素人のオレの目にみてわかるほど……リムルはどんどん弱っていった。
やがて笑顔すら潰えた――神様――――……そして……“やってきた”。

……哀しい、実感があった。今日が『別れの日』だと…………その夕方。

……リムルは目に見えて弱っていた。ああ、もうすぐオレの唯一の家族は死んでしまうんだ……それを理解した。
リムルの表情は苦痛に歪んでいた……こんなの……こんなのってないよ…最期くらい……安らかにしてあげたかった……。

……そのとき、オレは……何を思ったか……オヤジの形見の、ギターを取ってきた。
それはオレの唯一の親友と呼べるもの。幼いときからずっと一緒だった……。

ベッドに横たわるリムルに……オレは……今までのありがとうを込めて、歌を手向けた。
もちろん……歌を作っていたわけじゃない……いままでありがとうって……そのきもちが歌をつくった。
演奏しているうちに……いろんなことを思い出した…いろんな思い出が……涙になってあふれてきた――――

演奏を終えたと同時に……オレはいつのまにかリムルを抱きしめていた……
……するとどうだよ……ああ……リムルは…………いもうとは……その弱々しい力で、おれにしがみつきながらっ……
…………わらって、いてくれたんだ……――っ……!

はじめて――――はじめて、おれの行動が……
おれの行動が、誰かに何かを「もたらした」瞬間だった――――。


そして、リムルは……いまにも、きえてしまいそうな声で、つむいだ。

「ありがとう、おにいちゃん」

「おにいちゃんはすごいね」

「げんきがでたよ」


「おにいちゃん」

「おにいちゃんの歌で」

「もっとみんなをえがおにしてあげて――」


「ああ、オレは……オレの歌で、全世界を笑顔にしてやるよ……!
 どんな暗い闇の中でも、空を見上げればずっと皆を優しく照らしている……
 世界一の……ビッグスターに……なってやるから……!」

…………――――その言葉を、オレが言い終えると、……リムルは、何処か満足したように、目を瞑った。
その目が再び開かれることは、もうなかった。


≪DEICIDE 〜Till Death Do Us Part≫ 〜Part 7

リムルが死んで、まもなくして、オレは家にあった全財産と、ギターだけを持って、故郷を出た。
未練なんて無かった。何故って、オレにとっての“故郷”は『家族そのもの』だったからだ。
あたたかく「おかえり」を言ってくれる家族こそが、オレの心が落ち着けるふるさとだった。
この“村”そのものに、“故郷”という意味は無い。だからこそ、オレがここに居る理由なんて無かった。
そう、ギター1本だけで生きていく。そう誓って、オレは街を目指したんだ。

――だが、オマエさんたち。どう思う?なぁ。14のガキが!
ちっぽけな“決意”だけで――ドシロートがだ!ギター1本だけで、食べていけると?思うかい?
聡明なオマエさんたちなら解るだろ?『まさか』だよなぁ…ってな。そう。オレはバカだったんだ。
世の中そんなに甘く無いってことを、あれだけ幼少期叩き込まれたはずだったのに、まだ理解してなかったんだ。

いや、寧ろ――『両親を亡くし、妹を亡くし、妹から死に際に願いを託された――――』
この“ストーリー”。オレは“やっていける”と、心のどこかでそう信じ込んでいた。
まったくバカバカしい……妹の最期の願いだから“叶えられる”と……そんなワケ、断じてないのに!
そんな現実を知らない愚かなガキの行く末は――目に見えていた。

――――畜生!幾らギターを弾いたって、幾ら歌ったって、誰も見向きやしねぇ!
いや、立ち止まるヤツは居る。だが、そいつらがオレに投げかける視線のソレは!!
“バカじゃねェノ”――そう、そんなものを孕んだ視線だけ。冷たい氷の視線だッ!
畜生ォ……こんなハズじゃねぇのに。オレは……オレには何が足りないッ!?――――

……『足りない』?そいつは違うんだ、イルゾル。昔のオレ。
根本的に『違う』……そう、オレは“理解”していない――いや、“理解”しようとしていなかった。
そして、オレが出した答えは安直だった。まず『見た目から』変えてみるか――?

……なけなしの、残ったお金をつぎ込んで、オレは変わった。ド派手に。ド派手に変貌した。
真っ黒の髪は黄金色に染め上げ、整髪料を買い込んでツンツンに立ち上げた。
エナメル質のハデな紫色のジャケットを買い、背中にはデカい星をひとつ縫い付けてもらった。
革のベルトに、でっかいでっかいスターのバックルを買った。ジーンズも黒の高いヤツ。
インパクトが欲しかったから、上半身裸の上からジャケットを着た。
喋り方も印象に残るよう工夫した。一人称だって、『オレ様』に変えた……。
そう。ここで『イルゾル』は『イルゾル・ビッグスター』になった。ド派手な容姿のヘンなヤツ。
…………その塗り固められた外ッつらは、内側を隠すためのものだったというのに――。
そして――オレはこれで“いける”と思ってた――。オレは“変わったんだ”……と……。


…………そんなわけ、ないだろう。


現状は、何ひとつとして変わらなかった。次第に俺の荷物はギターだけになっていった。
寝床が無い。食べ物が無い。ああ、金が無いと何も出来ない……。
……フラフラと、引き寄せられるように俺の足は街の陰へ。路地裏へと伸びていった。
無意識だった……――そうかい、オレは結局、『そっちの人間』にしかなれねぇのかい…自覚した。

ゴミ箱を漁った。料理店が捨てたのか、食べ残しなのか、食い物があった。食べた。
躊躇いも、思うことも何も無かった。『ああ、堕ちたんだな』とだけ思った。

ゴミ箱を漁っていたら後ろから殴られた。「そこは俺の餌場だ」と言ってきた。
≪ディーサイド≫で鼻が鼻なのか解らなくなるまで殴っておいた。
躊躇いも、思うことも何も無かった。『ああ、もう戻れないのかな』とだけ思った。

ブッ倒れたそいつのズボンから、ぽろりと零れ落ちたものがあった。
サイフだった。ゴミ箱を漁るだけあって貧しかったが、お金であることには変わりなかった。
オレはそれを奪い取った。
躊躇いも、思うことも何も無かった。『ああ、』とだけ思った。

その日、オレは久々にベッドで眠れた。
その中で、『もうどうにでもなれ――――』と思った。


物語はこうして冒頭に還る。ここから先は、オレの“血塗られた闇”の人生。
ただただ、『生きること』だけに執着した……そのために何人も踏みにじった。
『生きてやる』『生きてやる』『死に物狂いで生きてやる』それだけがオレを突き動かした。
いつしか過程が目的と成り変り、オレは只管殴り、殴られ、蹴り、蹴られ、血を流し流させて生きた。

ああ、なんでこんなことになっちまったんだろう―――。
オレは何かしたのか?でも、“仕方ないだろ”……両親も妹も死んだ……。
信じたものは全部消えていった……もう何も要らない。オレは独りでいい……それだけで…………。


――――ああ(堕ちた)


≪DEICIDE 〜Till Death Do Us Part≫ 〜Part 7.5

……そろそろこの街も潮時かな。
色々とやり過ぎた。手配される頃だ。
まァいいさ。この街は結構喰えた。上等、だろう。
思い立ったらすぐ移動だ。朝日がまぶしい時間帯。
荷物が全然無いってのも、ラクでいいな。

……あれ?そういえばオレは何でこんなものを背負っているんだ?
ギターケースだ。よく考えればずっと背負っていた。
邪魔で邪魔で仕方ねェ……なんでオレはこんなものを?
そういえば何でオレはコレを武器にしないんだ?いつもディーサイドの拳だけでやっている。
こいつでブン殴ればチョッとくらい有利になるのによ。バカじゃねーの。

……わかってるよ。でも仕方ないだろ。これしかないんだから。
いつまでも縋ってミジメで仕方ないのはこのオレだ。どうしようもない。
ここで生きていく以外に道は無いよ。果てなき灰色の道。そこ以外はオレにゃあ眩しすぎるし暗過ぎる……。


……この道、どっかで見覚えがあるな
テキトーに線路沿いに歩いてりゃあ次の街に着くだろうと思ってたが。

…………。

…………。

……なんてこった。

オヤジとオカンが死んだとこの近くじゃねーか。そういえば、あれはもう何年前になるんだ?
日付なんか数えてない。そんなもん意味ないから。どうだっていい、無駄。
吹っ飛んだ線路も綺麗に補修されてるじゃないか。ご苦労なこった。

…………。

…………。

……ん?

なんだ?……鳥か?
あの事故が起こった場所からちょっと離れたところに、なんだありゃあ。林があるじゃないか。
あンときゃあ無我夢中で気付かなかった。いや、そんなの気にしてなかった。
林にゃあ食い物がある。ガンバりゃあ雨露も凌げる。ラッキーだ。
次の街までどんだけあるかわかんねぇー。今日は、あの林で休んでいこう。

…………。

…………。

……ピーピー鳥がうるせェな。
そういえば、肉を食べていない。
フツーのトリの肉ってのは食えるんだろうか……まぁ、肉だし、食えるだろう。
ラッキーが重なるぜ。今日はトリだ。あそこに巣があるな。ちょっといただいていくぜ。

……っ……

…よ………。

ク。ご対面だ。卵まであるじゃないか。ラッキーは重なる。
ご丁寧に親鳥はソコで卵を温めているじゃないか。ハン、ディーサイドを使えば一瞬でコイツの首を捻れる。
どれ。心配しなくても、スグにオマエの子供たちもオレが喰ってやるから――

――――。

――――え?

――――おい。何だ?テメエの後ろッ側にある。
“その”“銀色に光る”“もの”は?

――――――――!


≪DEICIDE 〜Till Death Do Us Part≫ 〜Part 8

――ウソだ。それだけがオレの頭の中を支配した。
だが、目の前にあるそれは紛れも無い現実で。
見間違えるワケも、無かった。――ああ……。事故の際に吹っ飛んでいたのか?
それを彼らが拾ってこの巣に――――ああああ……!

そこに、あったのは。

紛れも無く、オヤジのペンダントだった。

ただ、無心でそれを奪い取った。親鳥が鳴く。五月蝿い、それどころじゃあない!
オレの手の中に収まる、銀色の簡素なそれ。ああ、間違えない。オヤジがつけていたものだ。
チェーンの部分は黒くなっている……爪で掻くとカリ、と削れた。――――乾いた、血だ。オヤジの――
ああ……そんな……そんなことって、あっていいのか……!
オレは兎に角無心だった。そのペンダントを両手で包み込み、暫くずっと震えたままだった。
その時の感情は、今、想い起こして、言葉にしろってほうが無理だ。

やがて、オレは。
そのペンダントを、左手でつまみ。
……。…………。……――――――――ぱく、と、開いた。


 目に、飛び込んできた。




           ≪    笑    顔     ≫


 ―― ああ ――

ずっと 久しく 忘れていた ―――― 忘れようとしていた


           ≪    家    族     ≫


リムルが。オヤジが。オカンが。……――――『オレ』が。


 シ ア ワ セ そ う に。


    わ ら っ て い る ――――。


――頭の中に。
温かい水流が流れ込んできてオレの脳裏を満たしてゆく。


やさしいほほえみが――――オレにわらいかけてくれている――――ぁあ……ああああ……!

リムル……――おやじが……おかんが…… オレに わらいかけてくれている ――……

その傍らに。ああ、その傍らで――しあわせそうに、しあわせそうにオレにわらいかけてくれているのは――――


               ―――― オレだ ――――!

視界が滲んでゆく。もう何年も味わっていなかった。四肢がとてもあたたかいものに包まれていく。
ああ……!なんだよォォ……これはよォォーー……!

 なん、で……なんでオレは泣いてンだよ……ぁああ……なんでぇっ……っひ……ぅぁ……。

止められなかった。止めようとしなかった。止めたくなかった。……だってさぁ……まだオレ、『泣けたんだよ』……!

ぼろぼろと涙をこぼしながら――ふとオレの視界に、それが映った。
オレたちの写真の上――みんなの笑顔の上――なにかで刻み込まれた、  文字  ―――――



             ―――― しんじられる道をゆけ
                         俺の最愛の息子へ ――――

                 ―――― 星を わすれるなよ ――――



――――ぁ

 ぁあ…あ…………ああああああああ…………ぅぁあああああ…………!

      ――――  とうさん …………!


わかって、いたんだ。
わかって、いたのに……オレは、どこで間違えちゃったんだろう……?
オレは……こんなのまちがってるって、わかってたのに……!
これしか、ないって……とうさんもかあさんも死んじゃったから、これしか、ないって……!
そんな、そんなこと……ぜったいに違うのに……
「仕方ない」なんて言葉で……逃げてるだけじゃあないかぁああ……!

こんなのが……オレの「信じられる道」なわけ……ないよ……
リムルは…リムルはさいごに、おれの手を握ってなんて言ったんだよ……!
みんなを、えがおにしてあげてって言ったんじゃあああないのかよぉ…………!
おれが……おれがえがおじゃないのに……なんでそれができるんだよ……

おれは……なにをじぶんがふこうだなんて……


       おれは……おれは、こんなにも“しあわせ”じゃあないか――――!


ごめんよ……

ごめんよリムル……とうさん……かあさん……!

ぁああ……ぅぅあぁあああああああ…………! ―――――――――――――――――――――――――――――。


オレが、ここまで泣いたのは、ひょっとしたらはじめてだったのかもしれない。
両親が死んだときも、オレはリムルのことをなんとかしなきゃいけないという責任感で。
そこまで大泣きすることは、なかった。
リムルが死んだときだって、そうだ。ここまで声をあげて泣き叫んだのは、オレは初めてだったんだ。

≪進むべき信じられる一直線≫

オヤジはオレに、それを見つけろと託していった。

≪みんなを笑顔にしてあげて≫

リムルはオレに、それを願って去っていった。

でもオヤジは、≪他人本位の道ではいけない≫と言った。

そして、オレが成し遂げようとしていたことは、誰かから願われ、受け継いだ、『受動』の道でしかなかったわけだ。
だから途中で崩れ、折れた。周囲のせいにして、どこまでも堕落していった。

でもそれは間違っているとわかった。

オレは、≪オレ自身≫が、本気で≪成し遂げたい≫と思う道を見つけなきゃならなくなった。
正直に言って、オレは、まだそれが何なのか、わからないんだ。
リムルの願い。笑顔。その手段として選んだ、ビッグスターへの道。
それは限りなく、≪オレ自身≫の願い。でも、どこかに≪他人のために≫が入ってるのは事実。
だから、これはきっと、正解で、不正解。

オレが正解を見つけるのは、いつになるんだろう?
そんなのわからない。明日かな?一週間後?もしかしたら何年もかかるんだろう。
でも、オレはもう揺るがない。

ひとしきり泣いた後の空は、とても澄んで見えた。
僅かに夜が降りてきていた。……ふと頭上を見上げると、そこには星が瞬いていた。

あそこまで辿り着ければ、答えは見つかるかなぁ?


――――オレの人生を。人は不幸だというのかい?

そりゃあ違うぜ。オレは、オレの人生は、トンでもなくハッピーだと思ってるんだぜ!

だってよォー!今!オレの周りには、こんなに“家族”が!“友達”が居るんだ!

独りじゃあ絶対出来ないことも、味わえないことも、色々味わえた!そして、これからも!!

それって、すごくすごく『しあわせ』なこと!そうだろ!?――――


……そんな、オレの『不幸』と『幸せ』のハジマリは。
オレの『人生』は、全部全部、こいつからはじまったんだ。


アートマン≪ディーサイド≫。


こいつを呪い、神を呪い、いつかその宿命を超えてやると誓って名付けた神殺し。
今、オレはこいつを恨んでるかって?……ッは!バッカじゃねぇーーの!
オレはこいつに。スゲーーーッ!!感謝してる!

今のオレの幸せをくれたのは!こいつだから!!


……こいつは、何時までもオレの相棒だ。
こいつが居たから、今のオレがある。こいつと一緒に、オレはもっともっと幸せになってやる!
なぁ、そうだろ、ディーサイド。


何処までも。
幸せを求めて。

何時までも。
『答え』を求めて。


オレとコイツは旅を続けるんだ。


そうさ。


  ≪  死が2人を分かつまで ―― Till Death Do Us Part  ≫




―――― Fin? ……―― To Be Continued!


≪DEICIDE 〜Till Death Do Us Part≫ 〜Part......?

…………。


……そうさ。

……こんな、とこで……終われないんだよ……。



だから……


動いてよ……


ねぇ……


なんで……動かないんだよ……


……ああ……


オレが……消える


消えて、ゆ、く ――――。



――――≪DEICIDE 〜Till Death Do Us Part≫ 〜Fin


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